犬ががんを教えてくれる? 近未来のがん検診とは

犬ががんを教えてくれる? 近未来のがん検診とは

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「がん」は、日本人の2人に1人がかかる病気だとも言われています。
それほど、私たち身近にある「がん」。でも、もし「がん」が「におい」で早期発見できたらーー。
そんな研究が今、日本で進んでいます。

「がん」には「におい」がある

どんなに健康な人でも、誰もが他人事とは言えない病気が「がん」です。
がんは、早期に発見することで多くが治療できるにも関わらず、日本人の死因のトップを占めています。

これは、がんが、現状の血液検査のような簡易な検査だけでは発見できないことが、理由の一つではないでしょうか。

でも、たとえば犬が、あなたのにおいを嗅いで、がんを発見してくれるとしたらどうでしょう?

実は、最近、「がんのにおい」をかぐことで、簡単にがんが発見できる方法の開発が進んでいます。
実際、一部の自治体では、「がん探知犬」を使った健康診断も行なわれています。

「がんのにおい」とは何なのでしょうか。近未来のがん検診の姿を見てみましょう。

がん細胞がにおいを出す物質を作る

がんは正常な細胞が、がん細胞に変化することで引き起こる病気です。
がん細胞は、無限に増殖を続けたり、通常とはことなる方法でエネルギーを生み出したりするなど、正常な細胞にはないふるまいを見せます。

がん細胞が活動中に作り出した物質は、血液を介して体内に循環します。
そして、「汗」「尿」「唾液」などの体液を通じて、体から空気中に放出されます。これを「がんのにおい」として検出しようとする試みが、近年増えているのです。

「がんのにおい」は人間ではわからない

「がんのにおい」は、人間の鼻では捉えることができません。
しかし、嗅覚が人間より優れている犬や線虫(1ミリメートル程度の長細い生物)は、「がんのにおい」を識別できます。

実際に、人間の尿を犬や線虫に嗅がせ、その反応を見てがんを発見する手法が確立されつつあります。

山形県金山町では、がん患者の尿を9割以上の確率でかぎわけられるよう訓練した「がん探知犬」[1]を用いて、がん検診を実施しています。

また、九州大学の広津崇亮さんらが開発した「N-NOSE(エヌ・ノーズ)」[2]というがん検査法では、線虫を使って、95%以上の精度で10種類のがんを判別しています。

線虫ががんをかぎわける様子[3]

尿検査だけでがんの種類がわかる

現在のがん検診では、胃がんなら胃がん検診、乳がんなら乳がん検診といった具合に、がんの部位ごとの検診が必要です。

しかし、犬や線虫を使った方法は、尿検査だけで、がんの発見だけでなく、がんの種類までも見分けることができます。

犬や線虫を使ったがん検診は、精度が高く、簡易ながん検診の新たな方法として期待が集まっています。

今後、飼育や訓練といった動物特有の課題をクリアすることで、このような検査方法が普及し、私たちの身近な病院でも受診できるようになるかもしれません。

「がんのにおい」で発光するセンサー

一方で、生きた動物を使わずに、「がんのにおい」を識別しようとする試みもあります。
「がんのにおい」だけに反応する「嗅細胞」を並べたセンサーを使う、というものです。

嗅細胞とは、鼻の中にある細胞で、においの元となる物質の分子を検知します。
「がんのにおい」も、がん細胞の作った物質の分子を嗅細胞が検知することで感じることができます。
人間の鼻は、約400種類の嗅細胞で、何万種類ものにおいをかぎ分けています。

嗅細胞がにおい分子を検知する[4]

大阪大学の黒田俊一さんらは、この嗅細胞の中に、「がんのにおい」を検知する嗅細胞があることをつきとめました。

どうやって実験したかというと、におい分子を検知した嗅細胞を発光させるしくみを作ったのです。
これに実際の肺がん患者の尿を反応させたところ、がんのにおい分子を検知した嗅細胞が発光したので、特定できたのです。

この研究を応用し、採取した尿を反応させるキットのようなものができれば、実際の動物の嗅覚に頼らずに、「がんのにおい」によるがん検診ができるかもしれません。

生物を使わなくても、「がんのにおい」を発見できる

さらに、嗅細胞すらも使わずに、「がんのにおい」を検出しようとする研究もあります。

物質を構成するすべての分子は小刻みに振動しており、「がんのにおい分子」も例外でありません。
分子の振動は、遠赤外線として検出することができます。「がんのにおい分子」から発せられる遠赤外線を検出できれば、がんの検査にも応用できる、というわけです。

理化学研究所の田中拓男さんは、「金」をナノメートル(1億分の1メートル)単位で加工したシートを作成しました。
このシートは、分子の振動で発せられる遠赤外線を観察することができます。
このように、物質をナノメートル単位で加工して、赤外線などの電磁波に対する性質が変わった物質は、「メタマテリアル」と呼ばれます。

がんのにおい分子検出イメージ[5]

このメタマテリアルのシートで遠赤外線を観察することで、がんのにおい分子の存在を検知する、という研究が進められています。

シートを使って尿や汗から、がんのにおい分子を発見できれば、がん検査に応用できるかもしれません。
メタマテリアルは軽くて耐久性もあるので、うまく開発が進めば、使い勝手の良いシートになるでしょう。

においで早期発見できれば、がんは治る病気になる

がんは早期に発見できればできるほど、治る可能性が高い病気です。においでがんが早期発見できるなら、日本人が長生きする確率もグンと上がるでしょう。

また、現在、人間のゲノム解析も進み、がん細胞についても多くのことがわかってきています。
このような研究も進めば、がんが誰でも完治する日は、そう遠くないのかもしれません。


source:
[1]「がん探知犬、早期発見に期待 山形・金山町が試験導入」 日経新聞
[2]「健康・医療・社会保障の「法研」と線虫がん検査の「HIROTSUバイオサイエンス」が全国展開に向け業務提携」
[3]HelathCareBiz「線虫がん検査が世界のがん医療を変える!N-NOSE開発物語」
[4]日本デオドール(株)「においのメカニズム」
[5]田中拓男「三次元メタマテリアルを用いた温度可視化装置および赤外線可視化装置」 理化学研究所田中メタマテリアル研究室