無駄な婚活はもうしない!最新テクノロジーは恋愛に活かせるか?[前編]

無駄な婚活はもうしない!最新テクノロジーは恋愛に活かせるか?[前編]

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フォルクスワーゲンが示したように、道路の渋滞緩和などさまざまな分野で活躍を見せている「量子アニーリング」。多くの企業が導入を進め、日本でも多くのユーザーが活用しはじめています。

「無数の組み合わせを調べて、最適な組み合わせを提案する」のが得意と言われる量子アニーリング――ですが、たとえば“婚活のマッチング”にも応用可能なのでしょうか。

しかし、「コンピューターに結婚相手を決められる」と思うと、抵抗を感じてしまうのも事実。
婚活に関わらず、人生の選択をコンピューターに指示してもらう未来は訪れるのでしょうか。

量子アニーリングに関する研究の第一人者であり、mercari R4Dの共同研究先でもある
東北大学大学院情報科学研究科准教授・大関真之先生
に話を聞いてみました。

今回、せっかくなので、
渋澤怜。1986生まれの、東京大学文学部卒。バリバリの文系人間。カップルが恋に落ちる仕組みに興味をもち、水商売や出会い系サイトのサクラのアルバイトをしたこともある。
という、ちょっと変わった経歴をもつ彼女にインタビューしてもらいました。

量子コンピューターが人間の恋愛感情や人生の選択に関わってくる!?

はじめまして、渋澤怜です。前々から「婚活のカップリングは、「年収●万円以上」「長男」「趣味」などの条件で相手を絞るけど、こんな表面的な方法で恋愛対象を決められるのかな?」という疑問がありました。
その話をSF好きの友人にしたところ、「量子コンピューターが結婚相手を決める未来が来るかもね」と言われました。

しかし、私が持ち合わせている量子力学の知識は「SFによく出てくる、パラレルワールドとか可能世界の根拠で出てくるやつ?」程度。
本当に量子コンピューターが人間の恋愛感情や人生の選択に関わってくるなら、その話はとても興味がある。けれど、文系の私は量子力学の入門本を読んでも難しくてなかなか理解できない……。

というわけで、量子コンピューターの中でも無数の組み合わせから最適な選択を提案してくれるという量子アニーリングを第一線で研究されている大関真之准教授に直撃インタビューしてみることにしました。

量子アニーリングは、「会議中にいきなりひらめくアイディアマン」

――いきなりなんですが、量子力学には興味があって、何度か入門本にトライしたこともあるのですが、調べれば調べるほど「わからないな」と思ってしまうことが多いんです・・・。先生が専門とされている量子コンピューターと従来のコンピューターの違いを、文系の人間にもわかりやすく説明してだけるとうれしいのですが・・・。

大関真之准教授(以下、大関) そうですね、量子力学の説明って……難しいですよね(笑)。

最近の僕はこういうふうに説明しています。

「量子コンピューター」は、量子力学という、原子や分子など非常に小さいスケールのものが活躍する舞台での振る舞いを活用した、まったく新しい動作原理で動くコンピューターです。
よく量子コンピューターは速い、と言われることがありますが、そういうわけではありません。ただちょっと違うことができる。

たとえば、足し算と引き算しかできないところに、掛け算と割り算が使えるようになると、計算の速度は飛躍的に上がりますよね。2を8回足し算するには8回の計算が必要ですが、掛け算は1度でその計算ができるわけですから。

そうした計算をする際に、できることの幅が広いというのが、通常のコンピューターと量子コンピューターの違いです。だから量子コンピューターで利用できる計算方法を駆使すれば、早く終わる問題がある。それが量子コンピューターの威力につながります。

僕が研究をしている量子アニーリングという方法は、そうした方法とはまた違います。そこがややこしいのですが、量子力学にはひとつ、ユニークな性質がありまして、「重ね合わせの状態」というのがあるんです。これは、複数の異なる状況を保持しながら計算を進めることができるということです。

この性質を利用して、これまでの計算原理とは異なる動作の計算をします。
量子コンピューターでは、複数の異なる状態を保持しながら、最後に必要な結果を導けるように工夫を凝らした計算をさせます
一方量子アニーリングでは、そこまで凝ったことはせず、複数の異なる状態から、最適な状態だけを答えとして出せということを自然の力に任せてしまいます。つまりお願いをするだけです。だからやれることは、限られた不器用な計算方法だけです。

でも、言ってみてば放っておくと答えが返ってくるので、なんだかおもしろいし、ある意味使いやすいわけです。量子力学の難しいことは置いといて、とりあえず使えちゃいますからね。
しかもカナダのベンチャー企業であるD-Wave Systemsがそれを実現したマシンを販売したものだから、驚きです。だってそれを使えば本当にやってみることができるんですから。

では、どんなふうに量子アニーリングは答えを出しているのかというと、たとえば「A~Eの5つのプランのどれが最適か」を調べる際、従来のコンピューターだと、まずAプラン、だめならBプラン……と順番に検討していました。そのため、Aの結果を踏まえた上でのBプランの検討となり、「前の結果を引きずってしまう」、また、「時間が掛かる」という点がデメリットでした。

これが、量子アニーリングによる検討方法だと、A~Eプランをとりあえず候補にして検討を始めます。途中はさまざまな可能性を保持して検討しているわけです。そして最後に「Bのプランが最適でした」という解答を出すだけです。

例えるなら、従来のコンピューターのやり方を「会議」だとすると、量子アニーリングでは、会議中に突然ひらめいて、最後の最後に「わかった、これが答えだ!」と言い出すアイディアマンみたいなものです。

量子アニーリングによって日常のさまざまな問題が解決する

――なるほど。「量子アニーリングは最適化問題を解くのに向いている」とよく聞くのですが、そうした量子力学の特徴と相性がいいということなんでしょうか。

大関 そうですね。
向いているわけでもないんですよ、実は。最適化問題って要するにパズルなんですけど、そのパズルを量子アニーリングで解くには解く。だけど本当に難しいパズルを解くのはやっぱり時間が掛かる。
僕も量子アニーリングの研究を始めたときはガッカリしたし、それこそこんなのおもしろいの?って思いましたよ。夢のような威力を発揮すると思っていましたから。
でも量子アニーリングの理論的な研究を進めるにつれて、悲観的になってきた。無理なものは無理、難しいものは難しいという結果が出るばかりでした。

しかし実際にD-Wave Systemsが開発したマシン、量子アニーリングを実行するマシンに触れてみると、ちょっとワクワクが止まらなかった。本当に一瞬でパズルの答えが出てきたからです。
もちろんできる問題は簡単なもので、小規模なものです。なのでこれまでのコンピューターが本気でやって、そのパズルを、工夫を凝らした方法で解かせてみれば、もしかしたらもっと速く解けるかもしれません。
でもコンピューターがそうした方法を理解してくれるので、プログラムをしないでよく、とにかくこういうパズルを解いてくれ、と量子アニーリングマシンに入れる。そしたら一瞬で答えが返ってくる。ちょっと病みつきになりますよ

しかもパズルといっても、世の中にはいろいろな形のパズルがある。そしてそれぞれにいろいろな解き方がある。それらすべてを駆使して世の中の問題を解決するとしたら、どれだけの手間と時間が掛かるのか。それよりは、量子アニーリングマシンにホイホイとパズルを投げて、どんどんと解いてもらう方がよっぽど楽です

量子アニーリングで解かれた最適化問題の代表的な例として、「交通量の最適化」というのがあります。各々の車が常に動き、異なる目的地をもっていて、道の混雑状況も常に変わり、無数の選択肢がある中で、すべての車がスムーズに通れる道を導き出すというものです。これは、量子アニーリングの柔軟さや速さがよく生きる課題です。
私たちもこの点に注目して、津波などの災害時におこる浸水被害から速やかに避難をするための「避難計画問題」へ量子アニーリングの適用を試みています。

こういった「刻々と事態が変わる中で最適なプランを見つける課題」は、実は日常の多くの面に潜んでいるので、量子アニーリングを活用するよい問題設定として考えられます。

――他にどんな課題が解けるんですか?

大関 「空港で航空機が離着陸する際、どのターミナルを使うと人がばらけて混雑を避けられるか」「どの工程をどの順でやると仕事がもっとも効率よく終えられるか」などの課題も適用範囲に含まれます。

こういった課題は、従来のコンピューターでも解けますが、量子アニーリングマシンはいわば「生まれたての赤ちゃん」。赤ちゃんは育てないといけませんから、僕らは日々この赤ちゃんに「どういう課題が得意なの?」「この課題をどう切り分けると、できるようになる?」と問いかけ、得意な課題を探っている段階です。

量子アニーリングで婚活は可能か

――量子アニーリングがどんな課題が得意かはよくわかりました。「刻々と事態が変わる中で最適なプランを見つけるのが得意」となると、これはまさに婚活にも応用できそうですね。

大関 ま、まあ、たしかにそうかもしれませんね。
たとえばひとつのコミュニティに結婚相手探しをしている人が一定数いて、その中で「AさんとBさんはベストカップルだから、絶対外せない」と考えられていたとしても、もしかしたらその二人がカップルになることで、他の人たちが割を食っている、つまりカップルになれずにいるかもしれない。

そういった「AさんとBさんは絶対」という思い込みをいったん外して、試しにフラットに計算してみる。本当の最適解が別に見つかるかもしれません。

――でも、コンピューターに「あんたは絶対にAさんと付き合うべき!」と勧められてもムカつきそうですよね(笑)

大関 まあそうですよね。とはいえ、実は現状の量子アニーリングマシンでは、答えが最適なものが出るとは限りません。何度かやってみるとさまざまな答えを弾き出してくれます。

実はD-Wave Systemsが開発したマシンを「量子アニーリング(をやろうとしてしくじっている)マシン」と僕らは呼んでいます。まだまだ改善の余地があります。それをどう捉えるか、です。
技術がまだ発展途上にあるのだから、仕方のないことです。逆にその性質を利用すると、何度計算してもそのカップルが現れるなら、そのカップルは絶対だということになるし、あるいは何度かやると結果が「ふらつく」という場合もありえる。

たとえば、「Aさんの相手が、BさんかCさんかDさんでふらつくことが多いな」とわかったら、Aさんに「この中の誰かがオススメですよ」と提案することができます。
何度も何度も量子アニーリングを実行して得られるさまざまな結果を利用して、こういった「あいまいなオススメ」も可能となります。失敗をうまく利用するとね。
まあ僕らのさじ加減でパズルの問題はどうにでもできてしまうので、うまくAさんとBさんをくっつけるなんていうこともできちゃうから、気をつけないといけませんよ。

私としては、選択できるからこそ人生はおもしろいと思っていますし、それに人間に「ハイ、これが最適解ですよ」と強いたところで「え、今そんな気分じゃないし無理」とはねつけられる可能性もある。人間の性格、気分や感情を性格に数値化するのは難しいですからね

***
「人間の気分や感情の数値化は難しい」と言う大関先生。

後半では、未来を占う可能性を秘めた量子力学を最先端で研究する先生が、人間の感情についてどう考えているのか、そして、自身の人生ではどう決断しているかをお聞きします。

後編はこちら