新生WIRED編集長と語るテクノロジーの未来[後編] 僕たちはテクノロジーとどう向き合うべきか

新生WIRED編集長と語るテクノロジーの未来[後編] 僕たちはテクノロジーとどう向き合うべきか

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20世紀のメディア研究家マーシャル・マクルーハン。彼の有名な言葉に「メディアは成り立ちそのものがメッセージだ」というのがあります。
テックカルチャー・メディア『WIRED』は、その言葉の通りテクノロジーを通してカルチャーやライフスタイルを鋭く切り取り、先鋭的なデザインのもと、読者に未来を問いかけてきました。
後編では、雑誌版を1年ぶりにリブートした編集長の松島倫明(まつしまみちあき)氏に、月刊I/Oの元編集長の藤井創(ふじいそう)が新生WIREDについて話をうかがいました。

前編はこちら。

メディアとしてのWIRED

藤井創(以降、藤井) 実は僕、今までコンピュータの雑誌の編集長をやっていて、そのとき唯一読んでいたのが『WIRED』だったんですよね。

松島倫明(以降、松島) そうだったんですね。ありがとうございます。

藤井 なので、紙の雑誌が休刊になって、前編集長の若林さんが辞めたとき、とても残念に感じていたんです。でも松島さんが編集長に就任して雑誌『WIRED』がリブートすると聞いて、いてもたってもいられなくなってしまって(笑)。今回、松島さんがWIREDの編集長になられたのは、どういった経緯からなんですか?

松島 僕はもともと、『WIRED』US版の創刊エグゼクティブエディターだったケヴィン・ケリーの著書や『FREE』や『MAKERS』で有名な元US版編集長クリス・アンダーソンの著書の邦訳を手がけ、彼らの来日時には当時の『WIRED』日本版編集部と一緒にイベントをやったりしてたんです。あと『ZEROtoONE』のピーター・ティールが来日したときにも一緒に「ティール・ナイト」をしました。そういう意味で、『WIRED』のUS版や日本版編集部の方々ともともと一緒に仕事をしていたからでしょうね。

藤井 WIREDと関係のある方々と仕事をしていたから呼ばれたと。

松島 それもあると思うし、あとは僕自身が長らく米国のデジタルカルチャー本に関わっていたというのもあるかと。僕自身はテクノロジーについて語りたいわけじゃないんですよね。それよりもテクノロジーが今後の社会にどういう革新的な影響を与えるのかに興味があって、僕が先ほど挙げたような本を日本にもってきたのも、そうしたビッグアイデアを日本に紹介したいと考えていたからなんです。そこが、WIREDのビジョンと親和性があったのかな、と思います。

藤井 なるほど。WIREDの紙の雑誌が復活すると聞いて、僕は素直に嬉しかったんですけども、一方で僕も雑誌の編集長をやっていたからよくわかるのですが、今の時代、正直雑誌って売れないじゃないですか。雑誌が売れない時代に、なぜあえて雑誌を復活させようと思ったんですか。

松島 僕は雑誌がそれだけで完結するものだとは思っていなくて。WIRED全体で考えると、雑誌やWeb、イベントなど、全部を含めて新しい価値を作るひとつの大きなメディアだと考えているんです。
Webやイベントにもそれぞれ役割があるように、雑誌という媒体は唯一無二の振り切った切り口や見識、価値をひとつのパッケージにして発信するものとして、一番適切だと思います。

WIREDに流れるデザインオリエンテッドのDNA

藤井 たしかに、僕も仕事柄いろいろなテクノロジー雑誌(コンピュータ雑誌)を読んできたんですけど、『WIRED』って他の雑誌と切り口も含めて違うな、と思っていて。内容も単なるテクノロジー雑誌じゃないな、と思っていました。

松島 そうなんです。たしかにテクノロジーを扱っているんですけども、テクノロジーそのものについて書いてあるんじゃなくて、そのテクノロジーが人間のライフスタイルや生き方、社会の成り立ちやカルチャーにどういう影響を与えるのか、そのコンテクストを描いていくのがWIREDなんです。だからそういった意味でも、テクノロジー雑誌だとは思っていないんですよね。なので、今までのWIREDは、テクノロジーというよりも、人間やカルチャーを扱ってきたし、これからも扱っていきたいと思っているんです。

藤井 そう考えると、そもそもコンデナンスト社から出ているということもあって、やはりデザイン重視というか、アプローチの仕方が他の雑誌と違ったということでしょうか。

松島 そうですね、『WIRED』は米国で93年に創刊したんですけども、出自というか、生まれたときからすごくデザインオリエンテッドな雑誌だったんです。
それこそ、マーシャル・マクルーハンの有名な言葉で「メディアはメッセージである」というものがあります。つまりメディアって、何を伝えるのかっていうコンテンツも大切なんですけども、メディアの成り立ちそのものがひとつのメッセージであって、WIREDは、雑誌という形ではあれど一番先鋭的なデザインで伝えるという、メディアとしてのカタチを常に意識しているんです。それは今でも同じですね。

僕も、1994年に日本版が創刊された当時、書店で『WIRED』を手に取ったときのことを今でも思い出すんです。4色+特色や蛍光色で刷られていて、文字なんて全然読めない。でも読めないことも含めてどう読者にメッセージを伝えるか。そんな実験的で先鋭的な挑戦は、WIREDのDNAとして刻まれていると思います。

藤井 そうそう、『WIRED』のデザインをはじめて見たとき、なんでこんなに読みにくい色使いをしているんだろうって思いました(笑)。レイアウト的にも、枠線に余白をもたせずに、ラインぴったりに文字を書く。下手したらラインに文字が重なっているところもある。読みづらいけど、レイアウトが印象に残る。今までの雑誌レイアウトの常識を知っている身としては、まさに衝撃的でした。どうしたらこんな風な発想ができるのか、知りたいところです。

松島 雑誌を読む行為自体が読者に対する経験や感情を喚起するものだと思っているんです。そう考えたときに、デザインが果たす役割は何なのかを考えるんですよね。人間はナマの感情や経験の積み重ねでしか動かないので、いかにその感情を喚起するか、そこを考えることが、WIREDが強く意識している部分なんです。

新しいWIREDを創造する

藤井 僕はどうしても以前の若林さんが編集長をやっていたころの雑誌が好きだったので、それをイメージしてしまうんですが、秋に復活した雑誌『WIRED』日本版は、今後は今までのビジョンを大事にしつつ新しいことをやっていく感じでしょうか。

松島 そうですね。以前の『WIRED』は前編集長の若林さんのカラーが強い雑誌でした。若林さんは尊敬する大編集者ですし、彼の真似をしようとしても残念ながらできません。だから僕らは、『WIRED』本来のブランドと価値を引継ぎながら、新しいものを作っていきたいと思っています。

僕は書籍の編集者として経験を積んできたので、Webや雑誌は未経験です。そういった意味での不安がないといえば嘘になります。でも40歳半ばで新しいことにチャレンジできることには幸せに感じていて。勉強すべきことは多いですけれど、僕たちはチームでやっているので、たくさんの優秀な同僚たちと、どう『WIRED』を編み上げるか一緒に考えていきたいです。

そういった意味で、今後のWIREDは、紙とWeb、総体的なビジョンで作り上げていきたいと思っています。

雑誌やWeb媒体すべて含め、あくまでWIRED自体がひとつのメディアであると語る松島氏。海外のテクノロジー本に携わった経験と今までのWIREDのよさを生かしながら、新しい色を出して『WIRED』を編んでいく意気込みが伝わりました。今後の新生WIREDに期待大です。

(文:勝田竜矢、写真:三條 康貴)