テクノロジーがスポーツの未来を変える:イノフェス2018で見えてきたTechとSportsの融合

テクノロジーがスポーツの未来を変える:イノフェス2018で見えてきたTechとSportsの融合

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AIがオリンピックの審判を努め、ARで選手のプロフィールやルールを可視化、VRでマイナースポーツを体験する時代がやってくる――。

テクノロジーと音楽の祭典・「INNOVATION WORLD FESTA」。通称「イノフェス」は2016年、J-WAVEと筑波大学の共同開催という形でスタート。3回目となる今回は2018年9月末に2日間開催されました。

初日の「テクノロジーが変えるスポーツの未来」がテーマのトークセッションでは、それぞれの分野の専門家が登壇。メディアアーティストの落合陽一氏、日本フェンシング協会会長の太田雄貴氏、全日本スキー連盟競技本部長兼アルペンスキーワールドカップ実行委員会副委員長の皆川賢太郎氏の3名が、テクノロジーによってスポーツ界をどう変えられるのかを議論しました。密度の濃い40分間をギュッと凝縮してお届けします。

ARの技術を用いて剣先の軌道を光で可視化

現在、日本のフェンシング競技人口はおよそ6000人。太田氏は、2008年の北京オリンピックでの銀メダルをはじめ、数々の功績を残しながら競技の魅力を発信し続けててきたものの、フェンシング競技人口は伸び悩んでいるとか。

2017年8月、太田氏は日本フェンシング協会の会長に就任。「競技の人口を5万人まで引き上げる」という目標を掲げます。達成のために同氏が見出した活路はテクノロジーと言います。

太田 フェンシングは、剣の動きが速すぎてなにが起こっているのか理解しづらいんです。僕を含めレベルが高いプレイヤーたちですら、相手の剣の動きを見失うことがあるぐらい。だから、せっかくテレビで見てくれたとしても、おもしろさが伝わらない。それを解決するには、テクノロジーの力を借りる必要があります。

そこで2020年の東京オリンピックでは、フェンシングの中継を見てくれる人にわかりやすくしたいと思っていて。そのために、剣の軌跡を画面上で可視化するシステムを急ピッチで開発しているところです。剣先に取りつけたセンサーで剣の軌跡を捉えて、その動きを光で表現する。こうなってくると、スポーツなのにアートのような楽しみ方もできると思うんです。

落合 これ、いいですね。フェンシング以外にも導入していきたいところ。たとえばボクシングでも「どうしてそういう判定になったんだろう?」って思うことがよくある。私たちは素人ですから、判定の可視化っていうのは重要になってくるし、そこにちょっと遊び心を入れて、格闘ゲームのようにダメージを表示していくと、よりおもしろく見せられるんじゃないかと。

太田 もうひとつの課題は、競技者の顔が見えないことですね。ここもテクノロジーで解決できるといいんですけど…。

落合 たしかに、表情が見えないとその部分を予想する楽しみそのものがなくなってしまう。でも今どき、映画『アイアンマン』のトニー・スタークだって、素顔が見えなくてもその下の表情を読み取れるじゃないですか。フェンシングもフェイストラッキングをしたらいいんですよ。フェンシングはジャケットと剣を使う競技ですが、その剣がジャケットに触れたら通電して判定されるというシステムですよね。これだけテクノロジーと相性のいい下地がそろった競技なんて他にはそうないですよ。

モーグルスキーやスノーボードもAIで採点する時代に?

スキーやスノーボードといった、屋外でおこなうウィンタースポーツでは、まだ人の目によるジャッジが多いため、判断が難しいケースがある──そう語るのは、全日本スキー連盟競技本部長を務める皆川氏。こうした課題を解決するため、テクノロジーを導入する流れにあるものの、障害もあると語ります。

皆川 フェンシングで、私たち素人が剣の速さについていけないのと同じように、モーグルスキーやスノーボードといったジャッジスポーツでも似たような問題があります。これらの競技では基本的に人の目でジャッジを下すわけですが、判断が難しい場合もある。そこで、体操の競技でも採用されはじめているAIを使った採点支援システムをこれらの競技でも採用するように動いています。選手が、本当に点数を加算されるようなパフォーマンスをしたのか、審判が判断できるようにするためです。この辺りは解析が必要なので、まだまだテクノロジーが発展しないといけません。

落合 そうなると、審査員の声の強さより証拠のほうが勝るようになりますね。政治的な要因で、テクノロジーの導入を阻む人たちはいないんですか?

皆川 採点の中で「スタイル」という項目が点数に加算されるんですが、「そもそもAIではスタイルまで判断できないだろう」という理由で阻む人はいますね。

落合 やっぱり、テクノロジーを実装していくためには、ロビー活動が重要になるわけですね。太田さんと皆川さんのおふたりは、その点をすごく努力しているから、いつもおもしろいと思っています。

VRで自分に向いているマイナースポーツを探す時代に?

ルールがわかりやすくなっても、実際にやってみなければおもしろさもわかりませんし、自分に向いているかどうかもわかりません。そのスポーツに触れる機会と環境がないと、競技人口は伸びないのです。

そこで落合氏は「映像コンテンツが安くなれば、そのスポーツの見どころやおもしろさを得られるように授業を構築することも可能」と、VRを学校教育に取り入れることを提言します。

落合 学校教育の中で、もっと幅広いスポーツに触れられるようにすべきだと思いますね。たとえば、サッカーなら小学校の授業でみんな一度はボールを蹴っている。バスケットボールも同じですが、これがマイナースポーツになると話は変わってくる。小学校でフェンシングに触れたって人はほとんど聞かないし、スキーにしたって授業に組み込める地域はかなり限定されるじゃないですか。

そこでVRの出番です。さっき、この会場で「VR フェンシング」を体感してきましたけど、ゲーム感覚で楽しめましたね。VRで再現されている太田さんが本当に強くて、バーチャルリアリティなのに「うわー、負けてる! 負けたくない!」って熱くなりました(笑)。

太田 あれは1年ぐらい前の、まだ動けるころの僕が再現されています(笑)。それはさておき、フェンシングをやっている僕から見ても、かなりリアルに体験できるようになっていますね。子どもたちにも非常に好評です。

落合 こういうVRでマイナースポーツに興味をもってもらうきっかけづくりをしていって、最終的には自分の好きなもので、かつ向いているものを見つけてくれるようなテクノロジーが出てくるといいなと思います。

もし自分がフェンシングに向いているとわかれば、「もっとやってみよう!」って思えるはず。やったことがないスポーツでも、身体能力を測ることで「自分に向いているかもしれない」とデータを見せられれば、それが興味をもつきっかけになるかもしれません。VRは、競技人口の少なさをカバーするカギですね。

柔道メダリストに投げられる動画をシェアして魅力を拡散

次世代の通信規格「5G」──。NTTドコモとKDDIが2020年年内の導入開始を表明し、ソフトバンクも「2020年ごろを目指す」と回答。落合氏は「5Gの世界では上限なくデータを送れるようになる」といいます。登壇者たちも映像コンテンツの重要性と可能性をしっかり認識し、来たるべき未来を見据えてこのように語っていました。

皆川 インターネット上にプラットフォームを作って、その中で選手のプロフィールから表情までを共有する仕組みを構築しました。直接目で追える部分は追ってもらって、選手の細かな動きや表情は手元のスマートフォンで確認するというわけです。海外で戦うことが多いので、どこでも見れる映像をすごく大切だと思っているんですよね。映像を通して、選手の日常をどんどん見せていけたらいいなとも思っています。

落合 この前、オリンピック選手の柔道のメダリストたちに投げられまくるという稀有な体験をしたんですけど。ああいうコンテンツを選手自ら出せるようにするともっと人気が集まると思うんですよ。

太田 こういうものをInstagramのストーリーでシェアするような感覚で、お互いが「この選手すごいんだよ!」と紹介し合うことが、興味の範囲も広げることにつながるんじゃないですか。僕らがずっと動画でつながることのできる時代が来たら、スポーツの未来も大きく変わるような気がしています。

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5Gの普及によって、インターネット上には映像コンテンツが今以上に増えることでしょう。そこに、視聴者にとって有益な情報を表示する「AR」やあらゆるスポーツを身近な体験に変えてくれる「VR」が加わります。

テクノロジーによってスポーツの可能性が広がっていく。そんな未来が近づいています。