虫の足音は季節の訪れを教えるのか。私たちがBug’s Beatで伝えたかったこと[前編]

虫の足音は季節の訪れを教えるのか。私たちがBug’s Beatで伝えたかったこと[前編]

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日本の科学館で働く佐々木有美さんと、アーティストやデザイナーなど多彩な顔をもつドリタさんのアートユニット「佐々木有美+ドリタ」。二人で製作した「Bug’s Beat(バグズビート)」は、プリ・アルスエレクトロニカ[1]での受賞歴もある意欲作です。

この、虫の足音を「大きな音+振動」で体感するというユニークな作品は、どのように着想し、製作が進められたのでしょうか。「科学と芸術の丘[2]」というイベントの一環でバグズビートが展示された際に、お二人にお話をうかがいました。

佐々木有美
ドリタ

展示している虫は、決して死なせたくない

── お二人で作られた「バグズビート」とは、どんな作品なのでしょうか。

ドリタ ケースの中に虫が入っていて、その前にある椅子に座ると、ケース内の虫の足音が大きな音で聞こえてきます。それに加えて振動スピーカーで椅子を振動させ、虫の足音を体全体で感じることができる、という作品です。

佐々木 目の前の虫は小さいのに、音はすごく大きく聞こえる。そうすると、自分の大きさが変化したように感じるんです。そうした不思議な音響体験を作り出したい、と思って製作しました。

── 3種類の虫のケースがありましたが、それらの足音がすべて重なって聞こえるんですか?

ドリタ ケースA、ケースB、ケースCがそれぞれ鳴るタイミングを、楽譜のようにプログラミングしてあるんです。虫が動かないときは休符、という扱いです(笑)。私たちが演奏するのではなく、虫が演奏するので、基本的には虫任せなんですよね。足音がビートで、それをいつも奏でているというコンセプトです。

佐々木 虫の脚の本数によって、だいぶビートが変わるんですよ。

ドリタ 重さも関係あるんですよね。シャラシャラシャラって音が鳴る虫もいれば、ガリガリという音が鳴る虫もいる。それを8ビートや16ビートなどに置き換えて考えると、音楽の解釈もおもしろくなるのかなと思います。

── 虫の選定は?

ドリタ 展示会場のある土地に棲んでいる虫に演奏してもらう、ということは決めています。だから、このあたりで虫を採るんです。

佐々木 トラップを作って、引っかかった虫を採ってくるんですよ。それで、虫かごなどに入れて、展示室の暗いところに置いておくのです。控え選手的な虫をたくさん用意して、展示されている虫を弱らせないように気をつけています。絶対に展示で虫を殺したくないので。

ものづくりイベントでの出会い

── お二人でものづくりをするようになったきっかけは、なんだったのでしょうか?

ドリタ 私が佐々木さんを最初に見かけたのは、「Maker faire」の前身である「Make: Tokyo Meeting」の第7回ですね。2011年だったと思います。女性の出展者はめずらしかったので、「なんか不思議なものを作ってる女の人がいるなあ」って印象に残って。

佐々木 私は、知人と「スライムシンセサイザー」という作品を出展していたんです。振動を電気に変えたり、私は知人と電気を振動にしたり振動を電気に変えたりする部品や、スライムシンセサイザーなどを展示していました。

ドリタ 私はその数年後、「Maker faire」に、人としゃべると動くたぬきのマフラーを作って出展して。そこで佐々木さんとあらためて話したのが、仲良くなるきっかけでした。私はちょっと変わったバンドをやっていて、ステージでスライムシンセサイザーを使わないかという話になって。それで、一緒にスライムシンセサイザーを開発することになりました。

佐々木 最初はお盆にスライムをのせていただけだったんですけど(笑)、ドリタさんと一緒にやりはじめて見た目をどんどんかっこよくしていったんです。

ドリタ ブラックライトで光らせたりしてね。あともっと演奏しやすいように、デバイスを変えたりもしました。2014年のメディア芸術祭にスライムシンセサイザーを出品したら、新人賞をいただいたんです。そこから二人でメディア芸術クリエイター育成支援事業の助成金制度に応募し、採択されました。で、2015年からなにか新しいものを作ることに決めたんです。

── それが、今回のバグズビートですね。もともと、作りたいものの方向性は一致していたのでしょうか。

佐々木 私たちは二人とも音が好きなので、音でなにかやりたいね、というのは共通していました。

── 「虫の足音を聞かせる」というのは、どういうところから着想したのでしょうか。

佐々木 私は科学館に勤めていて、そこで子どもたちに虫の足音を聞かせるということをたまにやっていたんです。虫の足音を聞くというのは、理科の教材でもたまにあるのですが、たいていイヤホンで聞くんですよね。でも、イヤホンだとリアル感が少ない気がして。音は全身で浴びたいし、振動を肌で感じたい。

ドリタ 佐々木さんからそれを聞いて、とにかく虫の足音を爆音にしてみようと盛り上がったんです。でもすごく難しい挑戦だということが、すぐわかりました。虫の足音は、もともと聞こえないくらい小さな音。それを増幅させるということは、他の音がした瞬間すぐハウリング(スピーカーとマイクがお互い反響すること)が起こってしまうんです。

バグズビートの製作で試行錯誤するお二人。後編ではその問題に真っ正面から取り組んだ様子と、今後のバグズビートの展開についてうかがいます。

後編はこちら。

(写真:三條 康貴)


Word:
[1] プリ・アルスエレクトロニカ……アルス・エレクトロニカ(Ars Electronica)は、オーストリアのリンツで開催されるメディアアートの祭典で、プリ・アルスエレクトロニカは、メディアアートに革新をもたらした人たちに与えられる賞。
[2]科学と芸術の丘……千葉県松戸市にある戸定の丘を中心に、世界最先端の研究機関、研究者、アーティストによる特別展覧会やトーク、ワークショップが行われる国際的なフィスティバル。