虫が友達だったあのころを思い出してほしい。私たちがBug’s Beatで伝えたかったこと[後編]

虫が友達だったあのころを思い出してほしい。私たちがBug’s Beatで伝えたかったこと[後編]

SHARE

日本の科学館で働く佐々木有美さんと、アーティストやデザイナーなど多彩な顔をもつドリタさんのアートユニット「佐々木有美+ドリタ」が製作した「Bug’s Beat(バグズビート)」は、途中大きな壁にぶつかります。その壁をお二人はどう乗り越えたのでしょうか。お二人にお話をうかがいました。

前編はこちら。

駅のアナウンスで使われるスピーカーを採用

佐々木 虫の足音を大きく鳴らしたいんだけど、その足音を拾う高性能なマイクが、ちょっとでも他の音を拾うとハウっちゃうんです。

── 音を拾うところと、音が鳴るところが近い機器を作るのが、そもそも難しいんですね。

ドリタ そこで、指向性スピーカーを使うことにしました。通常のスピーカーは、全方向に音が広がるんですけど、指向性スピーカーは狙ったところに音をまっすぐ届けられるので。

佐々木 でも、最初に使おうとしたスピーカーはめちゃくちゃ音がわるくて。指向性スピーカーはいろいろな方式のものがあるんですけど、最初に使ったのは超音波を利用するタイプだったんです。

ドリタ 蜂が間近でずっと飛んでるみたいな音がしてたよね。

佐々木 音がひどくてちょっと吐きそうになった(笑)。それで、なにがいいのかいろいろ探しているうちに、音響に詳しい方を紹介していただいて、相談してどんどんよくしていったんです。今は、フラットパネルスピーカーというのを使っています。

ドリタ これは、平面波を利用するタイプのスピーカーです。駅のアナウンスなどに使われるスピーカーなんですよ。駅のホームは長いから、普通のスピーカーを使うと、端まで音を届かせようとすると周辺の民家の迷惑になってしまいます。

── スピーカーを中心として同心円状に音が広がると、駅以外の広い範囲にアナウンスが届いてしまうんですね。

佐々木 そうです。でも、今バグズビートで使っているようなスピーカーは直線的に音が飛んで、40メートル先でも、スピーカーの直線方向だとほとんど変わらない設計になってるんですよ。私たちは、技術から表現を発想してるんじゃなくて、この表現をしたいから技術をよりよくしていこう、という発想で製作をしています。

ドリタ 二人の発想として「指向性スピーカーがよさそう」というのはあるんですけど、そのなかでどんなスピーカーがよいかといった細かいところまではわからない。だから、そこは音響の専門家の方などに相談して、少しずつ改良していきました。今使っているスピーカーは、ハウらず、自然な音で聞こえるんです。

虫の脚を拡大してよく見ると?

── 足音は、どのようにして拾っているんですか?

佐々木 装置の紙の上を虫が歩いて、その揺れが下に伝わって、その振動を電気信号に変換して、音にしているんです。紙を使っているのは、虫は脚を引っかけて歩くからです。ツルツルした床だと、「カチカチ」という音はするけど、普段の足音にはならなくて。

ドリタ 引っかけるときの音が鳴らないんだよね。最初はダンボールの表面をやすって使ってました。今は和紙に落ち着いてるんです。軽くて、脚が引っかかりやすいので。

佐々木 ベニヤ板とかも試してみたよね。朽ちたベニヤ板が一番よかったんだけど、加工しづらすぎて断念しました(笑)。

ドリタ 虫の脚って、拡大してみると足先が鉤(かぎ)みたいになっているんですよ。

佐々木 ダンゴムシの短い脚も先端は爪みたいに尖っていて、しかも固い毛がびっしり生えてるんです!

ドリタ 植毛したみたいだよね。

佐々木 虫が歩くところをよく見ると、足先で接地しているわけじゃなくて、第一の節の先全体を接地して引っかけてるんですよね。クワガタもほふく前進みたいにして歩いてるんですよ。

虫の足先を電子顕微鏡で見た図(佐々木有美撮影)

── 虫をよく観察して、その生態を活用しているんですね。

佐々木 そうですね。ダンゴムシはツルツルしたところを歩けないので、ケースから逃げてしまうのを防ぐために、ツルツルした紙で包んであげることにしました。

ドリタ 透明の折り紙でほおずきを作って、その中に入れているんです。底面だけ普通の紙でまわりはツルツルした素材になっている。そうすると、ダンゴムシは壁面を歩けないから、上を開けていても出ていかないんです。

── 虫を観察するのはおもしろいですか?

佐々木 おもしろいですねえ。家でも飼っています。なんといってもダンゴムシが一番いいですね。最近知ったんですけど、ダンゴムシって排尿しないらしいんですよ。アンモニアなどの不要物は、ガスとして殻から排泄しているのだとか。

ドリタ おもしろいねえ。

佐々木 ダンゴムシ、ムシといいながら昆虫じゃないんですよね。どっちかっていうと、エビとかカニの仲間で。

ドリタ そうやって聞くとおいしそうに見えてくるよね。

佐々木 あ、でも非常食にもなるらしいよ。サバイバルの本に、ダンゴムシを食べるって書いてあった。でも、ダンゴムシは重金属も食べちゃうから、汚染された土壌に住んでるダンゴムシは食べちゃだめかもしれない(笑)。

ドリタ きれいな土で育てたやつじゃなきゃ(笑)。

佐々木 ダンゴムシは、どんなとこでも生きていけるみたい。だから、世界中どこにでもいるんだよね。

ドリタ オランダにもいたもんね。

── ダンゴムシは、バグズビートをアルスエレクトロニカに出展したときに見つけたんですか?

佐々木 そうです、そうです。もともとオランダが原産らしいんですよ。それが鎖国時代に、オランダとの交易で荷物にくっついてきて、日本にも入ってきたみたい。でもいろいろ謎が多くて、それが本当かどうかはわからないんですよね。

虫は身近に生きていることを知ってほしくて

── アルスエレクトロニカ含め、バグズビートを体験された方の反応はどんなものなんでしょうか。

佐々木 子どもはとても反応がいいですね。

ドリタ 女性は最初に抵抗感があっても、意外と長い時間座ってくれる方がいるんですよね。そういう方はけっこうどこでもいて、おもしろいなと思います。

佐々木 でも、ケースを開けると嫌がられてしまう(笑)。長く座ってるから、虫に興味があるのかなと思って「ちょっとさわりますか?」とか聞いてみると「いやー! 閉めて、閉めて!」って。

── 音や振動で感じる虫と、実際に見る虫は別物のような感じがするのでしょうか。

佐々木 それが難しいところなんですよね。本当は、そこが地続きだと気づいてもらいたいんです。よく、「ダンゴムシ、久しぶりに見た!」「なつかしい!」と言われるんですけど、じつは今でも、いつも足元にいるんですよ。見えていないだけなんです。

ドリタ 佐々木さん、2016年の2月の恵比寿ガーデンプレイスでもダンゴムシ捕まえていたもんね。

佐々木 そうそう。2月はさすがにいないかなと思ったけど、いた(笑)。でも、こういう展示にするとショーケース的な感じというか、特別な感じに見えてしまう。特別な感じに見えるから、虫が苦手な人にも興味をもってもらえるので、いい点でもあるのですが。難しいところです。

ドリタ みんなけっこう、小さいころは虫と遊んでいたんだけれど、大人になるにつれて虫への嫌悪感が強くなってしまうんですよね。それを少しでも軽減するきっかけになったらいいな、と思っています。

佐々木 ダンゴムシは友達だってことを、思い出してほしいですね。

── 今後、バグズビートはどうなっていくのでしょう。

佐々木 もっと改良したいですね。マイクや配線など、もっとよくできないかいろいろ試しています。

ドリタ あと、虫ケースのまわりをジオラマにするという構想もあるんですよ。まわりに生態系を作って、そこに虫もいて。そこから捕まえて、ケースにのせるというのをやりたいんです。

佐々木 お客さんが、好きな虫を入れ替えて音を聞けるようにしたいんです。そうしたら、展示の特別感が薄れて、虫が身近にいるということをもっと感じてもらえるんじゃないかと。

ドリタ 以前、近くの神社でみんなで虫を捕まえてきて、その足音を聞くというワークショップをやったんです。そういうかたちで、その土地ならではのことをやるのもおもしろいと思います。

佐々木 バグズビートでやりたいことがまだまだあるので、ずっと改良を続けていきます。

(写真:三條 康貴)