感情を伝える「エモテック」の進む道

感情を伝える「エモテック」の進む道

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テクノロジーは、すべてデジタルな数値で表現されていて冷たい感じ。

そんなのは、もはや昔。いまでは誰でも簡単に操作や対話できるよう、人間と優しいコミュニケーションをとるテクノロジーが求められています。とくに感情(エモーション)を扱うテクノロジーは、このごろは、「エモテック」という造語で呼ばれはじめ、各方面から注目を集めています。

表情で感情を伝える

エモテックの例として分かりやすいのは、ロボットです。昔のロボットは、見るからに機械の形状をしていましたが、今では「カワイイもの」「ぬいぐるみのようなもの」「人間の形をしたアンドロイド型のもの」など、感情移入がしやすいように、外見にも工夫が見られます。みなさんが、一度はふれ合ったことのある「Pepper」は、カワイイロボットを代表するひとつで、店舗の受付案内係などで活躍しています。Pepperは、技術的にはあらかじめ決められた行動しかできないロボットですが、感情移入しやすい外見をもったため普及した、いい例だと言えるでしょう。

一方ロボットには、カワイイものだけでなく、人間のアンドロイドのようなリアルなものもあります。
アンドロイド型ロボットを作っている著名人は、大阪大の石黒浩教授。石黒氏は、さまざまなアンドロイドのロボットを研究しています。読者のなかには、タレントのマツコデラックスとそっくりのマツコロイドを見たことがあるかもしれません。これは石黒教授が監修した作品です。

石黒教授と石黒教授のジェミノイドHI-1[1]

石黒氏の作品として興味深いものに、テレノイド[2]があります。テレノイドは遠隔地で操作した感情が手元でわかる作品で、現在のエモテックの流れに通じるものです。テレノイドは、特定の人物を模したリアルなものではなく、ただの白い人形です。しかしだからこそ、汎用性があり、老若男女問わずに、想う相手のことを想像できるとされています。

大阪大学とATR石黒浩特別研究所が共同開発したテレノイド

感情を伝えるという研究は、各方面で研究が続けられています。最近大きく注目を集めたものとして、藤堂高行氏が開発した「SEER」があります。人間の表情をカメラで捕らえて、それと同じ動きをすることができます。動画を見るとわかりますが、とてもしなやかな表情をしていて、少し、ドキッとする感じもします。

リアルではないエモテックも

こうしたリアルなエモテックは、まだ研究の段階で、すぐ私たちの生活のなかに入るものではありません。しかしここまでリアルでなくても、エモテックは、少しずつ商品として組み込まれています。エモテックは、要は感情を技術で伝えられるかどうかですから、別にリアルである必要はありません。たとえばシャープの「ロボホン」などの表情が変わるロボット、そして会話するぬいぐるみなどもエモテックの技術に入るものと言えるでしょう。

そしてIoTの分野にもエモテックが登場しています。たとえば、OQTA(オクタ)という鳩時計。この鳩時計は、「スマホで操作すると、鳩時計が鳴く」。それだけの装置です。これのどこがエモテックなのでしょうか。

OQTA

それは使い方にあります。OQTAは実家などに置き、スマホでの操作は、その実家を出て行った息子・娘が操作するということを想定しています。つまり、息子・娘がスマホで操作すると、実家の鳩時計が鳴る。このようにして「実家のことを想っている」ということを伝えることをコンセプトにした製品です。

OQTAでは、誰がスマホを操作したのかを敢えてわからないようにしています。そうすることで操作の義務感をなくし、「長男は全然実家のことを想ってない」などといういらぬ兄弟姉妹間の競争が出ないようにするためです。鳩時計のクオリティが高く、贈り物としても適しているため、一部で人気の製品となっています。

感情を伝えるというと「いかにリアルに伝えるか」ということに重きが置きがちですが、OQTAのような製品を見ると、単純な「オン・オフ」の信号だけでも、使い方次第で十分にエモテックになるのだと、改めて考えさせられます。

テクノロジーがエモ度を増幅する

OQTAの例からわかるように、そもそもエモテックは、感情を伝えるテクノロジーの総称であり、なにか特別な技術を指すものではありません。たとえば私たちが普段使っているメールやメッセージ、SNSなども感情を文字で伝える技術であり、そういう意味で言えばこれらはエモテックです。

でも普通、私たちはこれらをエモテックとは呼びません。エモテックなのにエモテックと呼ばないのは、「エモ度」が小さいからです。私たちは、メッセージのやりとりに、絵文字やスタンプを使うことがあります。こうしたものは感情を高めるので、少し「エモ度」が高いと言えるのではないでしょうか。

だったら、「メッセージに写真を付けたら?」「声を付けたら?」「メッセージをAIで認識して、そのときの表情をロボットの顔などで表現したら?」など、さらにエモ度を高める方法がいくらでも考えられます。エモテックは、こうした小さな積み重ねで生まれるのです。

感情を増幅するのは、意外と単純な工夫で実現できることもあります。たとえばオモチャなどで、顔の部分だけ液晶仮面が付いていて、表情が変わる製品がありますが、こうしたインターフェイスは、簡単ながらもエモ度を高めるインターフェイスの例だと言えます。

Spheroの「スフィロ アルティメット ライトニング マックィーン」は、ディスニーの大人気映画 カーズ をおもちゃで再現したもの

感情を表情で伝えるというような「いかにもエモテックなもの」は、まだ研究段階なので、すぐに私たちが手にすることはないでしょう。しかし、コミュニケーションをより取りやすくする小さな工夫の積み重ねのエモテックは、知らぬ間に組み込まれていきます。そしてそれらは、エモテックなのだけれどもエモ度が低いので、エモテックという言葉ではなくて「使いやすい」とか「わかりやすい」という従来の評価基準で計られていくはずです。

こうした「小さなエモ度のテクノロジー」に今後着目するのは、なかなかおもしろいことかもしれません。


source:
[1]ジェミノイド™HI-1:国際電気通信基礎技術研究所(ATR)石黒浩特別研究所開発
[2]テレノイド™:大阪大学と国際電気通信基礎技術研究所(ATR)石黒浩特別研究所による共同開発