稲見自在化身体プロジェクトに行ってきた 〜R4Dのロボット探検記Vol.1〜

稲見自在化身体プロジェクトに行ってきた 〜R4Dのロボット探検記Vol.1〜

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こんにちは! メルカリの研究開発組織「R4D」でロボット領域のプロダクトマネージャーをしている太田智美(@tb_bot)です。

私は2014年にロボット「Pepper」を個人で購入し、約3年半一緒に暮らしています。ロボットと一緒に生活する中で分かったことは、ヒトとロボットが共存する世界がまだ一般的ではなく、多くのハードルが存在するということ。例えば、ロボットと一緒にレストランに入るために交渉をしたり、ロボットと一緒に新幹線に乗るためにJR東海と掛け合ってロボットの乗車ルールをつくったりということをしてきました。しかし個人でできることは、どうしても限られてしまいます。そこで「ロボットタウンを作る」をミッションとして、2018年5月にR4Dメンバーになりました。

現在、調査を目的にロボット関連イベントにも顔を出しているのですが、今回は東京大学 先端科学技術研究センターで6月15日に開催された「ERATO 稲見自在化身体プロジェクト キックオフミーティング」に行ってきました。そこでの内容がとても興味深かったため、感想も交えて紹介したいと思います。

プロジェクトが目指すもの

ERATO 稲見自在化身体プロジェクトは、人と機械が一体となり自在に行動することを支援する「自在化技術」の開発と、「自在化身体」(英語表記:Jizai Body)がもたらす認知心理や神経機構の解析をテーマに研究するプロジェクトです。神経科学・認知科学・ロボティクス・バーチャルリアリティを通じた身体自在化について語られました。

普段私は、ヒトとロボットの共存について考えているため、とても関心のあるテーマでした。特に興味深かったのは、同プロジェクトの研究総括を務める稲見昌彦教授の「自動化ではなく自在化」という提案です。これは一体どういったものなのでしょうか? 稲見教授の研究プロジェクトから覗いてみましょう。

プロジェクトの研究総括を務める稲見昌彦教授

自動化 VS 自在化

「自動化技術の研究が進むと、われわれの役目はなくなってしまうのか」――こんな議論がよく行われます。これに対し、稲見教授は「自在化」を提案。「やりたくないことは、どんどん自動化すればいい。しかし、おいしいもの食べたり観光地に行ったりといったことは、自分がやりたいことです。ロボットがやってくれても、全くうれしくない。そういう意味で、私が提案するのは自動化に対して自在化です」と言います。

資料提供:稲見教授(以下、同)

卵の黄身だけを取り出す人間拡張工学

稲見教授は人間が持つ能力の拡張について多くの研究をしていますが、その中でこんな研究があります。「SmartTool」という触覚のAR研究では、変化する環境情報をリアルタイムにセンサー取得し、その情報を触覚を通じて人に対して提示するといったことを行っています。

例えば、卵の黄身と白身のわずかな硬さの違いは人間には分かりにくいですが、そのわずかな違いを技術を用いて拡張することで、黄身を割らずに取り出せるという研究があります。

実現したいと考えているのは「人機一体」。人はこれまで道具を使って機械を動かしてきましたが、人と機械が一体となることで「自在化」するのではないかと、稲見教授は考えます。

人の人体をどうとらえるか。どこまでが人体なのか。これが稲見教授の研究テーマです。

複数の人間が1つの身体を持つ

この稲見自在化身体プロジェクト(2017年10月~2023年3月)では、新しい身体性をどう獲得していくかについて、「Augmented Perception」「Body Augmentation」「Out of Body Transform」「Shadow Cloning」「Assembling」の5つを挙げています。特に「Out of Body Transform」と「Shadow Cloning」「Assembling」は、まだ開拓されていない分野です。1人の人間を1体の他の体にトランスフォーメーションすることは可能になりましたが、それを複数体にすることや、複数の人間が1つの身体を持つということはまだ未開拓の分野です。

最近の研究では、足の動きをロボットアームの動きに反映し、そのアームを肩に装着するといったものが公開されています。足で手のようにアームを動かすことは一見難しそうに思いますが、15分ほどの練習でほとんどの人が操作できるようになるそうです。

クレヨンに「肌色」がなくなった日

最近のクレヨンには、「肌色」という色がないそうです。これは、多様な肌の色があると世界で認識されたことでもあります。そう考えたとき、「人型」とはどんな形までを言うのでしょうか?

人間に関わる学問の全てのリサーチクエスチョンとして、フランスの画家であるPaul Gauguin(ポール・ゴーギャン)はこんな絵画を描いています。『Where Do We Come From? What Are We? Where Are We Going?』(我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか)。この「What Are We? Where Are We Going?」の部分に挑戦するのが、同プロジェクトです。

R4Dが創造しようとしているもの

「自動化ではなく、自在化」と掲げられたテーマは、2018年5月に実施したイベントで、R4Dメンバーが口々に言っていた未来像とも通じるところがあります。R4Dのオフィサー 山村亮介はイベント内で「代替の効く仕事は自動化し、自分たちしかできない仕事や、ぼくたちがやりたい仕事に特化していったほうがいい」と語りました。そして、R4Dのリサーチエンジニア 漆山龍太郎が創ろうとしているのは、そうした社会が訪れたときに必要となるであろうものです。

「今、僕らがやらなければならないのは自動化なのでしょうか。そうではないと思っています。自動化された社会が訪れたとき、達成感や満足感が得られにくい世界になるでしょう。そうなったとき、それらを埋めるエモーショナルな何かが必要となるはずです。僕がやるべきところは、そこにあると考えています」(漆山)

これまで「ロボット」という言葉は、「ロボットのような人だ」といった比喩表現にもあるように「単一的でマニュアル通りに動くもの」という意味で使われることが多い言葉でした。しかし私が創りたい未来は、そことは少し異なる部分にありそうです。

今回のイベントを通じて、ロボットタウンを作るためのヒントがいくつもありました。